まちに住む人々1―ハーモニカを吹く青年

 ボクの生活範囲は、自宅近くの公園と荒川の河川敷、それに事務所。

 自宅近くにはURの団地があり、その団地を分けるように都の公園が貫く。

 その公園には、休日の午後、♪♪♪ゆうや~けこやけえの赤とんぼ……と、郷愁とともにうら悲しさをそそるハーモニカの音色が響き渡る。このハーモニカが実に上手い! 人の心を打つ。

 「お兄さん、ハーモニカ上手だね。いつもどこから来るの」そんな疑問と声掛けをしたいのだが、なんとも見知らぬ人にいきなり声を掛けるのもはばかれる。

 このハーモニカ、何時間にもわたって披露してくれるのだが(練習ではない、曲は完成品!)、どこの子も親も、通行人も声掛けをすることはない。小さな子どもは人懐かしく接し仲良くなるのだが、近づく子どもたちすらない。

 青年はすらっとした体型。細身だが、神経質そうではない。だからといって人なつっこい、というわけでもない。ごく普通の青年で、ただちょっぴり知育の発育があるようにも見える。とはいえ、変な青年では決してない。ボクは、声も掛けず、午後のひとときは広場のベンチに座って、一人演奏を聞くのを楽しみにしていた。

 いつの頃か、この青年を見かけなくなった。そのご、ふたたび現れたときには剣玉を持っていた。

ボクの友人は剣玉の糸を切り、玉に穴が空いた部分の表面を切り開き(すり鉢のような形。表面が広く中は細い)糸なしで剣玉を自由に操る名人がいるが(本人曰く、糸付きで剣玉をするなんて野暮とのこと)、くだんの青年は、糸付き。それがなんとも自由自在に剣玉を操る。正に名人だ。

 今度は剣玉の妙技を見せて貰うのが楽しみになった。 (I.K.)