まちに住む人々2―人形を抱えたオジサン1

 ボクは時間ができるとほとんど公園で過ごす。午前も午後も。

 毎朝出会うオジサンたち。「オハヨー!」「お~、今日は仕事?」。この会話はラジオ体操にいっても、出勤前、公園で体操をしているときにも繰り返される。最初は、ヒゲは白いものが交じっているけど、まだまだ現役で働いている、と訴えていたが、何度も繰り返されるので、「ハイ、仕事です」なんて素直に受け答えるようになっている。「う~ん、いいね、仕事かい」こんなこたえが帰ってくる。

公園では様々な人たちと会う。その一人が人形を抱えたオジサン。オジサンといっても六〇代半ば過ぎ。身なりは綺麗にしているのだが、いつも大きな人形を左手に抱えて登場するのだ。人形の大きさは一~二歳の子どもの大きさ。実に大きい! いつも綺麗な洋服を着せ、片時も離さない。

 チョットおかしい? そんな風に感じていました。でもおかしいのは子どもを抱えていることだけ。公園では有名人だ。

 どんなことが切っ掛けだったろうか、いつしか会話を交わすようになった。「オハヨー。今日は寒いね」たわいもない会話だ。話につじつまが合わないことはない。最後には「今日は仕事に行くの?」といって送ってくれる。他の公園仲間とまったく同じだ。

 ボクの特徴は疑問があっても問いたださないことだ。「その人形はどうしたの?」「なぜ抱えてもっているの?」「いつから持っているの」「着せ替えの洋服は自分で縫っているの?」聞きたいことは山ほどある。そんな質問をしたおじさんたちもいるかも知れない。でも、ボクは何も聞けない。何も聞かないオジサンがいるたので、人形オジサンのほうから声を掛けてきたのかも知れない。(I.K.)