まちに住む人々3―人形を抱えたオジサン2

 公園で出会う人形を抱えたオジサンの話の続き。
「その人形……」といっただけで、「何?人形??」と我に返られ、「うちの子のことを」と嘆かれ、オジサンの心を傷つけそうで何も聞けないのだが、園内をウォーキングする際にも左手で抱えて降ろさないところを見るともしかして腹話術師とも思えるのだが(数年前亡くなりましたが、近所にはボケで一世を風靡した柳家小せんさんが住んでいました)どうも、人形の口が動く風ではなく、きわめてリアル。
 とにかく、親しくなって、でも核心的なことには触れず。とはいえ、人形オジサンは理解力抜群。他のオジサン連中は、ご自分がリタイアしたのと同時に公園に集まってくる人々は皆リタイアしたオジサン、と思ってしまうとところがあるにも拘わらず、人形オジサンは「ふ~ん、まだ現役で働いているんだ。しかも、自分の事務所に通っている」。こんなことを理解してくれました。
 ところが、この人形オジサン、最近見かけません。公園横の赤提灯でその話を持ち出すと、「え、知らなかったの? あの人形抱えた爺さんだろう、死んだよ。結構経つよ」と教えてくれました。
 「あのオジサン、なんで人形抱えてたか、いやそもそもあれ人形と思ってたのかどうかしってます?」そんな疑問を初めて他人にぶつけてみると、「そうだよな~。おかしいぜ! でも、おれは話したことないし、近づいたことないからわからね~な~」と一言。
 思い返すと朝、「仕事かい? 自分でやってるんだろう。掃除だけでもいいんだ、お宅の事務所で働かしてよ」こんな懇願をされたのが最後の会話でした。
 しばらく、二人(三人)で、カルガモの親子を見て、いつも通り自転車で出勤。「気を付けなよ」って背後から聞こえた声が人形オジサンの最後の声でした。
 仕事を求めていた、それともいっぱいいっぱい話を聞いて欲しかった? 問いただして欲しかった?(I.K.)